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広島地方裁判所呉支部 昭和30年(タ)10号 判決 1955年10月31日

原告 泉原峰子

被告 バーン・K・エバンス

主文

原告と被告とを離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

原告は、昭和二十六年五月頃、東京において、アメリカ極東空軍軍人であつてアメリカ合衆国人である被告と事実上の結婚をし、間もなく被告が広島県安芸郡江田島町所在の米軍特科学校に転勤したので、原告もこれに伴い、同町において被告と同棲した。ところが被告は同年八月二日復員のため横浜港から船でアメリカへ帰つてしまつたので、原告は福岡市南新町五九九番地実父泉原作太郎方へ転居した。その後原告はアメリカ合衆国ワシントン州ポート・アンゼルス市に居住する被告と度々文通をしていたが、昭和二十七年三月五日福岡市役所において被告との離婚届を提出した。

しかし、その後被告の音信はとだえがちとなり、遂に被告は同年七月十六日発信の手続で、原告と同棲するため日本へ行く意思も資力もないこと、原告に対する愛情を失い、既に他の女性と恋愛関係にあること等を述べ、かつ、その手紙の中に、原告被告間の婚姻が被告の述べた事実によれば一九二四年移民法に規定された代理結婚であつて、原告に対し移民査証許可が与えられない旨を記載した一九五二年七月十日付アメリカ合衆国法務省移民帰化業務局の文書を同封してきた。

原告はその後も再三被告の意思を確めるために手紙を出したが、何等返事がなく、昭和二十八年四月頃離婚に同意するから手続書類に署名してくれるように依頼して、右書類を同封して送つたが、やはり返事がなく、最後に昭和二十九年十一月前同趣旨の手紙を被告の本籍地に宛てて差出したが、名宛人住所不明で返送されてきた。

右の事実によれば、原告は被告から悪意で遺棄されたものというべく、右は日本民法第七百七十条第一項第二号の「配偶者から悪意で遺棄されたとき。」に該当し、かつ、アメリカ合衆国ワシントン州の法律においても離婚原因と定められている。故に原告は被告との離婚を求める。

原告訴訟代理人は、証拠として、甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証を提出し、証人泉原清子の証言並びに原告本人尋問の結果を採用した。

被告は公示送達による適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、又、答弁書その他の準備書面も提出しなかつた。

理由

公文書であつて真正に成立したものと認められる甲第一号証並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和二十七年三月五日福岡市役所に対し、アメリカ合衆国ワシントン州出身のアメリカ合衆国人である被告との婚姻届を提出したことが認められるので、原告被告間に有効な婚姻関係が存在することが明らかである。

次に、原告主張の離婚原因事実について検討するに、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証、証人泉原清子の証言並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

昭和二十六年五月頃、原告は東京都内にある米軍郵政監察局に勤務する実兄泉原喜久男方に同居していたが、兄の仕事の関係で米極東空軍東京基地に勤務する被告と知合い、同棲するようになつた。ところが、その後間もなく被告は広島県安芸郡江田島町所在の米軍特科学校に転勤となつたので、原告も被告に同伴して同町に来りて居住し、同棲関係を継続した。しかし、被告は復員することとなり原告に対し「又日本に来るから待つていてもらいたい」と言い残して、同年八月二日横浜港から航路アメリカへ帰つて行き、原告もその頃福岡市南新町五九九番地実父泉原作太郎方に身を寄せた。被告はアメリカ合衆国ワシントン州ポート・アンゼルス市の住居に落ついたのであるが、その後原告に対し正式に結婚したい旨手紙を送り、原告もこれを承諾し、ここに前記認定のように両名の婚姻関係が成立した。しかしながら、被告はやがて原告に対する愛情を失い、日本に来る意思も資力もなく、加えて新たな恋人を持つようになり、昭和二十七年七月十六日発信の手紙で右の旨原告に申し送つてきた。しかも右手形に同封された同月十日付米国法務省移民帰化業務局の文書によれば、本件婚姻は一九二四年移民法に規定された代理結婚であつて、原告は移民査証許可を得られず、従つて米国へ行くことができないことが明らかとなつた。それでも原告は被告への愛着を捨てず、再三手紙を書き送つたが、被告は何の返事もよこさなくなつてしまつた。ここに至つて原告も遂に被告をあきらめる気持になり、昭和二十八年四月頃離婚に同意する旨を述べ、被告に署名してもらうべき離婚手続上の書類を同封して手紙を出したが、返事がなく、最後に昭和二十九年十一月前同趣旨の手紙を被告の本籍地に宛てて発信したが、名宛人住所不明ということで返送されてきた。

右の事実によれば、被告は原告を悪意で遺棄したものと認めるに十分である。

本件離婚の準拠法は、法例第十六条によれば、夫たる被告の本国法即ちアメリカ合衆国ワシントン州の法律であるが、同州の離婚に関する法律は一年間の悪意の遺棄を離婚原因としている。故に本件被告の行為はその本国法において離婚原因たるものであり、又、日本国民法第七百七十条第一項第二号「配偶者から悪意で遺棄されたとき。」にも該当するので、原告の本訴請求は理由がある。

よつて、原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石見勝四 裁判官 常安政夫 裁判官 石川良雄)

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